宮崎県立図書館ビジョン懇談会
第1回 宮崎県立図書館ビジョン懇談会の要旨
1 開催日時
平成28年5月13日(金)午後1時から午後3時30分まで
2 場所
宮崎県立図書館(宮崎市船塚3丁目210番地1)
3 懇談会委員出席者(敬称略)
根岸裕孝、中川美香、宮田香子、山内利秋、巻庄次郎、小橋智子、鈴木直樹、高峰由美、川越祐子
4 次第
(1) 生涯学習課長挨拶
(2) 委員紹介
(3) 事務局説明
(4) 講話『都道府県立図書館のあり方と宮崎県立図書館』
糸賀雅児氏(慶應義塾大学文学部教授)
(5) 協議
- 宮崎県立図書館の現状と課題について
- 宮崎県立図書館の今後果たすべき役割について
5 会議内容及び主な意見
(1) 生涯学習課長挨拶
- 本懇談会は、より長期的な視点で県立図書館の今後のあり方について、委員の皆様から御意見をお伺いする場として設置した。
- 現在の館が昭和63年にオープンし28年が経過している。市町村の図書館の数は約3倍に増え、インターネットの普及から公共図書館が提供可能な情報やサービスも変化し、県立図書館の役割も変わりつつある。
- 委員の皆様のお立場から考える現在の県立図書館の課題や解決策、理想とする将来像について御意見をいただきたい。
(2) 事務局説明
- 県立図書館では宮崎市周辺の市町の図書館の充実に伴い、平成14年度をピークに貸出しは減少傾向にあるが、一方レファレンスなどの調査ニーズが高まっている。
- 県立図書館に来館して本を借りる92.1%が宮崎市内の方である。県内に点在する市町村図書館や公民館図書室を通じて本を貸し出しする仕組みもあるが、全体の貸出の86%が直接来館による貸出サービス利用である。
- 全国の都道府県立図書館の中で、宮崎県立図書館は来館者数や年間開館日数はランキングが上位、個人貸出数が中位にあるが、図書館への貸出やレファレンスの受付数、専任司書割合は低位であり、市町村への支援や専門性においては課題があるといえる。
(3) 講話『都道府県立図書館のあり方と宮崎県立図書館』
慶應義塾大学文学部教授 糸賀 雅児氏
- 県立図書館は県民全ての図書館である。日常的に使う基礎自治体の図書館が第一線図書館であり、県立図書館は基礎自治体の図書館を間接的に支援する第二線図書館である。
- 県立図書館が直接サービスだけを充実しても県民全ての利用環境は整備されない。直接サービスと間接サービスのバランスを考えていく必要がある。
- 県立図書館は市町村立図書館との二重行政にはならないことを県民に分かりやすく示すために、優先順位を明確にし、市町村との区別、差別化を図っていく必要がある。
- 同じ書籍を市立図書館と県立図書館が所蔵し貸出ししていることに対し二重行政と誤解を受けやすいが、同じ分野の本が数多くあり様々な選択肢がある中で読むのと、限られた選択誌の中で同じ本を読み、調査するのでは意味が異なる。
- 県立図書館の入館者や貸出が増えたのではなくて、県民全体の(市町村の図書館・学校図書館を含む)図書館利用がどう変化していくのかが評価の指標となるべきである。
- 県立図書館の評価は県内全体の図書館利用をもって行うべきである。アウトプットは比較的短い1、2年の短いタイムスパンで見るべきものであるが、アウトカムは5年、10年という長いタイムスパンで考えるべきである。
- 県立図書館職員だけでなく、図書館のステークホルダー(利害関係者)、学校の先生、地元の商工会、産業振興の立場に関わる方、地元の本屋、出版社、新聞社の方達が一体となり合意形成を図り、その真ん中で長期的な視野に立ったアウトカムの設定をし、県立図書館の職員が頑張るとともに周辺の方が協力しながら県立図書館を盛り立てることが、県民全体の活性化、元気力につながっていくと考える。
(4) 座長の選出
根岸裕孝委員を座長に選出
(5) 協議事項
○ 県立図書館の人材について
- 専門性のある職員が継続的に現場にいるシステムづくりが学校図書館、公民館図書室、公共図書館に必要ではないか。過去にも子ども読書活動推進計画の編集に関わった折、専門職の人的配置の必要性を他の編集委員と訴えたが結果として計画の文中に入ることがなかった。図書館教育のためにも図書館に子どもの読書に関する専門の職員を配置し、専門の部署を設けるなどの視野が必要である。(宮田香子委員)
- 図書館には直接サービスで得たノウハウの蓄積と業務の継続性が必要である。司書資格をもっているだけではなく、使命感、情熱を持ち、自己研鑽を行い、蓄積したネットワークや知識、技術等を持つ職員が専門職だと考える。司書を専門職として配置し、育てていくことをお願いしたい。(巻庄次郎委員)
- 専門人材を育て様々な関係者とつながりながら新しい取組が生まれ、図書館として機能していく、という専門人材の育成と確保、ネットワークづくりがビジョンには重要なのではないか。(根岸裕孝委員)
- フリーライターという仕事の上で図書館で郷土資料を調べる機会が非常に多いが、この分野についてはこの方に聞けば分かる、と顔が浮かぶ方をどれだけ把握しているかが独立しての仕事を支えてきている面がある。図書館も同じである。(川越祐子委員)
- レファレンスを利用すると詳しい方とそうでもない方とがあり、利用するタイミングでサービスのスピードや質にムラがある。急ぎの時に詳しい方に当たり大変助かったことがあり、いつでも詳しい方がいるといい。
(川越祐子委員)
○ 高等学校図書館との連携について
- 県立図書館が主催して、司書や司書教諭の資格をもたずに図書係(学校図書館の担当部署)になっている高等学校の職員に対し、図書館のあり方を学ぶことができる研修会を開催してほしい。(鈴木直樹委員)
- 高校生の調べ学習の発表に対しコメントをすることがあるが、学校図書館の蔵書が貧困だと発表のレベルも低い。今後大学入試も変わる。自分の進路や興味のある分野について調べることができるような学校図書館づくりのために県立図書館と学校の連携を深める必要がある。そこに県立図書館の役割と県教育庁の役割とがあるのではないか。(根岸裕孝委員)
○ 大学図書館との連携について
- 研修会を通して大学図書館と公共図書館とが交流できることは職員のスキルアップになると同時に、公共図書館について得た情報を学生に提供することも可能となる。また大学間の交流ということで、宮崎大学と研修会を初めて開催した。学生も入り様々な情報を得、アイデアも出てきた。(小橋智子委員)
○ 県立図書館の役割について
- 県立図書館について、(宮崎市民の図書館ではなく)県民全体の図書館という姿を見せることが大切という糸賀アドバイザーのお話しがあったが、そこが一番大きな鍵であり、大きな改革、変革を要し取り組むのが難しいだろうと感じた。運営する側の意識改革とともに県民に広く知らせ理解を得ていく必要もあると思う。
(中川美香委員)
○ 市町村の図書館への支援について
- 熊本地震が発生したが、広域自治体である県立図書館の役割は基礎自治体である市町村の図書館の被災状況等の情報収集、連絡調整が災害時でも重要である。また、基礎自治体(市町村)の図書館職員は災害時は避難所対応等で図書館の業務ができない状態も多い。災害時資料の収集と継承等も広域図書館(県立図書館)が先頭に立って実施すべきではないか。(山内利秋委員)
- 県立図書館は職員が次々代わりこの人に連絡をしよう、という顔が見えない、という他の市町村の図書館の方の意見があった。また、現在は市立図書館長の集まりはあるようだが、市町村の図書館長同士の情報交換の場も求められている。市町村の図書館として物流を整備していただき感謝しているが、物流だけでなく、最後は人と人のつながりが大事ではないか。(巻庄次郎委員)
- 市町村の図書館のレファレンス資料は貧弱である。物流が迅速になったことでも あるし、県立図書館の館内閲覧限定のレファレンス資料を市町村の図書館に貸し出 して、住民がその図書館内で閲覧できるようにしてほしい。(巻庄次郎委員)
○ 読書推進のための図書館以外の動きについて
- ビジネスの世界でも企業努力だけでなく消費者教育が重要だが、読書についても、県民の意欲を深めるのは(図書館などの)インフラを整えるより時間がかかるのではないか。読書について全てを図書館で、というのは大変だ。自分は本はよく読むが、多くの本に囲まれるのが好きで本は自分で買ったり、電子書籍を利用していることもあり、図書館に対しては地理的、心理的に遠い。そのような方や、何を読んでいいかが分からない、という方も多い。図書館だけでなく、色々なレイヤーで顔が見える信頼できる本の案内人的な人をボランティアでつくっていき横で広げていくと県民全体の読んでみようかという向上につながっていくのではないか。(高峰由美委員)
- 読書の環境づくりについては県立図書館の役割、県教育委員会の役割があり、日本一の読書県運動は県全体として取り組む中で、図書館が中心になって行っていくのではないか。(根岸裕孝委員)
※ レイヤー(様々な読書活動に取り組んでいる方々)
[その他委員の質問に応じた糸賀アドバイザーからの助言]
○ 都道府県立図書館の人材育成について
市町村図書館からすれば県立図書館のあの人に相談すれば何とかしてくれるという顔や名前が出てくるには、県立図書館に経験があり自己研鑽を積んだ司書が継続 していることが必要である。マネジメントは県立図書館長が基本の方針を決めていくべきだが、市町村で何が起こり、市町村の図書館の充実のために県立図書館が何をやれば良いか、マネジメントを行うには専門職の役割が重要となる。図書館ビジョンとして専門職の育成と、人材の養成は大事な一つの柱になるだろう。
○ 図書館内のゾーニングについて
※ゾーニング(目的や用途に応じて空間を分けること)
武蔵野プレイスなど、壁が無く、自由に出入りができて、自由におしゃべりし、飲み物も飲むことができる空間が最近は流行である。一方で静かに読書したい方も いる。静と動の切り分け、ゾーニングは今後図書館の大事な役割になる。
○ ラーニングコモンズについて
子どもの頃に読書習慣を身につけさせれば、読書活動の推進は早い。国が子ども 読書活動推進法に基づき今は、子ども読書活動推進計画の第3次があり、全都道府県も計画を作っている。その計画の中には、子どもが本を読む環境を整備するため、図書館、学校、地域の取組が入っている。今後県立図書館のビジョンは新しい県の子ども読書活動推進計画とすり合わせていくことも必要である。
○ 子どもの読書について
子どもの頃に読書習慣を身につけさせれば、読書活動の推進は早い。国が子ども読書活動推進法に基づき今は、子ども読書活動推進計画の第3次があり、全都道府県も計画を作っている。その計画の中には、子どもが本を読む環境を整備するため、図書館、学校、地域の取組が入っている。今後県立図書館のビジョンは新しい県の子ども読書活動推進計画とすり合わせていくことも必要である。
○ 第1回の懇談会全体を通して
小さいときから小中高、社会人になるまで、生涯学習の過程の中で図書館はそれぞれの年代、それぞれの興味関心にあわせ問題解決を図り人生を豊かにしていく。 県立図書館のビジョンの中では、人材育成のかなりの部分を考えることになるが、学校図書館も大学図書館も含めた県民の図書館の接し方、読書生活の充実というものも視野に考えていく必要がある。